n-02 設計とは 身近な設計と、その大切さ 日常生活で「設計」という言葉はあまり使われてないので、何か特別なことをしているかのように思われるかもしれませんが、どんなものでも「設計」をしていないものはありません。例えば、家庭で作る料理です。「ちょっと塩が足りない」とか「少しお酢を入れたら美味しいかな」などと頭の中で考えますよね。これはれっきとした設計です。「どうしたら安くて美味しくて栄養のあるものがつくれるかな」というのは、ローコスト住宅の設計。参考にする料理の本は、参考書としての設計図面、調理は現場の施工と同じことなのです。 料理と家では、かかかる費用や規模もまったく違いますが、一連の流れや、していることは驚くほど似ているんです。そして、どんなに包丁さばきが上手でも、美味しくしようとする工夫を忘れた料理は美味しくありませんし、食べたいものじゃないものを出されても嬉しくないですよね。家づくりも同じで、どんなに大工さんが上手くても、もとになる設計が悪ければ良い家になるはずがありませんし、和風が良いのに洋風を設計されても、困ってしまいます。 実際の設計業務は、いろいろな専門知識が必要なので料理のように短時間ではできませんが、設計を特別なものと思わないでいただきたいのが一つ、そして良い住宅にするには、設計がとても重要ということを、忘れないでいただきたいのです。 設計ってどんなことをするものなの? 住宅の設計は、間取りばかりが重視されがちですが、平面的な部屋のつながりだけ考えても、決していい住宅にはなりません。 建物が建つ土地によって、それぞれ違う環境や規制の中で、各部分の高さや近隣との関係を検討しなくてはいけませんし、限られた予算や工期の中で、耐久性や断熱などの性能、地震などの外力に抵抗する構造、使用する材料などの検討などなど、考えなければならないことはたくさんあります。そして、それぞれに検討したもののバランスをとってこそ、良い住宅になっていきます。 「部屋はいくつほしい」などと、間取りから入るのが一般的ですが、いつかは使われなくなる部屋の寄せ集めでは困りますし、打合せのときの理想的な生活の話と、住みはじめてからの現実が大きく違ってしまっても困りますから、今現在の視点だけではなく、これからの生活を考えることが大切なことだと思います。 誰が設計するの? 住宅の設計は、設計者でなくてもできます。なんて、少々無茶な言い方をしますが、設計者なんて職種がなかった昔は、大工の棟梁がしていましたし、週末の休みを利用して、家をつくってしまう施主さんもいます。 先ほどの料理の例えですが、プロの人しか料理ができない、ということはないですよね。家庭の中でつくっている朝食や夕食もれっきとした料理ですし、なかにはお店で出すものより美味しくつくれる方もいらっしゃいます。ここで私がポイントにしたいのは、レパートリーや美味しさに差はあっても、料理は誰でもできることであり、住宅の設計も、住むという経験は誰もが持っていて、その視点から住宅を考えることは、誰にでもできるのではないかと思っています。 しかし、仕事としての設計は、料理と違って誰もが常にしていることではないですし、美味しくなかったらごめんなさいというわけにはいきません。構造の検討や法規的なチェック、また施工の為の図面を書くという、専門的な知識と技術も必要なので、誰もができることではありませんが、だからといって専門家しかできなくて自分たちには関係のないもの、と思わないでいただきたいのです。 住宅の設計に一番大切なのは 、「どういう住宅にしたいか」というベースになるイメージであり、これは住まい手自身の生活から生まれるものであって、他者が押し付けるものではありませんから、実際の設計業務は無理としても、住まい手が設計の中心を担っていることを、どうか忘れないでいただきたいのです。